再生医療や美容の情報で、「幹細胞」と「エクソソーム」という言葉を見かけることが増えました。どちらも細胞の働きに関係していますが、同じものではありません。
最も大きな違いは、幹細胞は生きた細胞そのもの、エクソソームは細胞が外へ送り出す小さな粒子であることです。この違いを押さえると、それぞれの仕組みや、治療として研究されている理由が理解しやすくなります。
📌 この記事のポイント
- 幹細胞は、自分と同じ性質を持つ細胞を増やす力と、特定の役割を持つ細胞へ変化する力を持ち、エクソソームとは役割や特徴が異なります。
- エクソソームは細胞から放出される小さな膜に包まれた構造で、細胞間の情報伝達に関わると考えられています。
- 幹細胞とエクソソームは関連していますが、同じものではありません。 エクソソームは幹細胞そのものではなく、細胞が放出する物質の一つです。
- 幹細胞培養上清液とエクソソームも同じものではありません。 培養上清液には、エクソソーム以外のさまざまな成分が含まれる場合があります。
- 細胞外小胞(EV)という用語は、エクソソームを含む、細胞から放出される小胞を広く指す言葉として研究で用いられています。
- エクソソームを用いた医療の研究は進められていますが、 その有効性や安全性については、引き続き検討が必要です。
目次
幹細胞は細胞を生み出す力を持つ細胞
私たちの体では、皮膚や血液などの細胞が日々入れ替わっています。こうした体の維持に関わるのが幹細胞です。幹細胞には、自分と同じ性質を持つ細胞を増やす力と、特定の役割を持つ細胞へ変化する力があります。
ただし、幹細胞にはさまざまな種類があり、どの幹細胞でも体のあらゆる細胞になれるわけではありません。血液をつくる幹細胞と、iPS細胞、脂肪などから得られる幹細胞では、性質も医療での使い方も異なります。
この記事では、エクソソームとの関係がよく研究されている間葉系幹細胞(かんようけいかんさいぼう、MSC)を中心に説明します。MSCは脂肪、骨髄、臍帯(へその緒)などから得られる細胞で、周囲の細胞に働きかける物質を出すことでも注目されています。
出典:医薬品医療機器総合機構(PMDA), 2023年1月17日|エクソソームを含む細胞外小胞(EV)を利用した治療用製剤に関する報告書
エクソソームは細胞が送り出す小さな情報の包み
体の細胞は、それぞれが独立して働いているわけではありません。周囲の細胞と情報をやり取りしながら活動しています。そのやり取りに関わるものの一つが、エクソソームです。MSCに限らず、さまざまな細胞が放出しています。
エクソソームは、脂質という成分からなる薄い膜に包まれた、肉眼では見えないほど小さな粒子です。タンパク質やRNAなどを含み、別の細胞の働きに影響を与えることがあります。RNAには、タンパク質をつくる情報を伝えたり、細胞の働きを調整したりするものがあります。
身近なものにたとえるなら、エクソソームは細胞が送り出す「情報の入った小包」です。この小包には、細胞の働きに影響を与えるさまざまな物質が入っています。受け取った細胞は、その情報に応じて働きを変えることがあり、炎症を抑えたり、傷ついた組織の修復を助けたりする可能性が研究されています。
ただし、小包の中身はどれも同じではありません。どの細胞から出たか、その細胞がどのような状態にあったかによって、含まれる成分や働きが異なります。「エクソソーム」という名前だけで、特定の効果があると判断することはできません。
出典:医薬品医療機器総合機構(PMDA), 2023年1月17日|エクソソームを含む細胞外小胞(EV)を利用した治療用製剤に関する報告書
幹細胞とエクソソームはどうつながっているのか
MSCは、エクソソームを含む小さな粒子のほか、細胞に情報を伝えるタンパク質なども分泌します。研究では、これらが炎症や免疫の反応、傷ついた組織の修復にどう関わるかが調べられています。
細胞が出した物質が近くの細胞に作用する仕組みを、専門用語で「パラクライン作用」といいます。難しく聞こえますが、細胞同士が物質を介して働きかけることです。
幹細胞治療というと、「投与した幹細胞が傷ついた場所に定着して、新しい組織になる」とイメージするかもしれません。しかし、MSCの働きはそれだけでは説明できず、周囲の細胞との情報交換も重要な研究対象です。投与した細胞が必ず患部に定着する、長く働き続ける、と決まっているわけでもありません。
こうした働きに着目し、MSCが放出するエクソソームなどの細胞外小胞を、医療に利用しようという研究も進められています。
出典:医薬品医療機器総合機構(PMDA), 2023年1月17日|エクソソームを含む細胞外小胞(EV)を利用した治療用製剤に関する報告書
幹細胞とエクソソームの違いを比べる
| 比較する点 | 幹細胞(主にMSC) | エクソソーム |
|---|---|---|
| 何なのか | 自ら活動する生きた細胞 | 細胞が放出する、膜に包まれた小さな粒子 |
| 例えば | 現場で患者の状態を診ながら、状況に応じて治療方針や対応を変えられる医師 | 医師がほかの医療スタッフに送り出す、治療や対応の指示が書かれたメッセージ |
| 体内でどう働くのか | 周囲の状態に反応し、さまざまな物質を放出したり、ほかの細胞と直接関わったりして、炎症や免疫反応の調整、組織の修復を助ける | タンパク質やRNAなどを運び、受け取った細胞の働きに影響を与えることで、炎症の調整や組織の修復を助ける可能性がある |
| 強み | 生きた細胞として周囲の状況に反応し、複数の仕組みで働くことができる | 生きた細胞を投与せずに、細胞が放出する成分の働きを利用できる可能性がある |
| 限界・課題 | 投与後の生存や働きが一定とは限らず、生きた細胞の品質管理が必要 | 幹細胞のすべての働きを再現できず、含まれる成分や作用も一定とは限らない |
どちらも炎症や免疫反応の調整、組織の修復を助ける可能性が研究されていますが、働き方が異なるため、必ずしも互いに代替できるわけではありません。また、この表は仕組みや特徴の違いを示したもので、治療効果や安全性の優劣を示すものではありません。
出典:Journal of Extracellular Vesicles. 13:e12510, 2024|細胞外小胞の臨床試験に関する批判的システマティックレビュー
出典:医薬品医療機器総合機構(PMDA), 2023年1月17日|エクソソームを含む細胞外小胞(EV)を利用した治療用製剤に関する報告書
幹細胞培養上清液とエクソソームは同じものなのか
一緒に紹介されることが多い「幹細胞培養上清液(ばいようじょうせいえき)」も、区別しておきたい言葉です。
幹細胞培養上清液は、幹細胞を育てた培養液から細胞などを取り除いた液体です。細胞が出したタンパク質や、エクソソームを含む粒子などが含まれる場合があります。一方、エクソソームは、その液体に含まれ得る粒子の一種です。
つまり、幹細胞は「細胞」、培養上清液は「細胞を育てた後の液体」、エクソソームは「細胞が出した小さな粒子」です。培養上清液を、そのまま精製されたエクソソームと考えることはできません。
出典:医薬品医療機器総合機構(PMDA), 2023年1月17日|エクソソームを含む細胞外小胞(EV)を利用した治療用製剤に関する報告書
出典:厚生労働省「幹細胞培養上清液及びエクソソーム等を用いる医療について(周知)」2024年7月31日。
研究で使われるEVという言葉
細胞が外へ放出する、膜に包まれた小さな粒子の総称を「細胞外小胞」、略して「EV」と呼びます。エクソソームは、そのうち細胞の内部でつくられ、特定の経路を経て放出されるものです。
ただ、取り出した粒子がどの経路でつくられたかを確かめるのは簡単ではありません。そのため、国際的な研究指針では、成り立ちを確認できない場合には「EV」と呼ぶことが勧められています。論文に「MSC由来EV」と書かれていても、エクソソームと無関係な話ではないのです。
出典:Journal of Extracellular Vesicles. 13:e12510, 2024|細胞外小胞の臨床試験に関する批判的システマティックレビュー
このように、幹細胞とエクソソームにはつながりがありますが、性質も利用の仕方も異なります。Part 2では、この違いを踏まえて、研究から何が分かっているのか、治療を考えるときに何を確認すればよいのかを見ていきます。